情報セキュリティの強化が求められる昨今で、自社の管理体制に不安を感じている担当者の方は多いかもしれません。信頼される企業として選ばれるためには、組織全体での情報管理体制の整備が不可欠です。中でも「ISMS認証(情報セキュリティマネジメントシステム)」は、多くの企業で導入が進んでいます。本記事では、ISMS認証の概要や他制度との違い、認証取得のメリット・デメリット、さらには取得までの具体的な流れを詳しく解説します。

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ISMS認証とは?
ISMS認証とは、企業や組織の情報セキュリティ管理体制が適切に整備・運用されているかを第三者機関が評価する制度です。
ISMSは「Information Security Management System(情報セキュリティマネジメントシステム)」の略で、国内では日本情報処理開発協会(JIPDEC)が定めた「ISMS適合性評価制度」で評価・認証されます。この認証を取得するには、指定された審査機関による厳格な調査を受け、国際標準である「ISMS認証基準」の要求事項を満たしていると判断される必要があります。2002年の制度創設時には約140社だった取得組織数も、2024年10月には7,900社を超え、この20年間で大きく普及しました。ISMS認証の特徴は、個人情報保護法などの法的要件に対応していることはもちろん、国内で広く普及している「Pマーク」の対象範囲もほぼ網羅している点です。そのため、情報セキュリティ対策の基盤として多くの組織に採用されています。
ISMS認証と混同されやすい認証
ISMS認証と最も混同されやすいのが、Pマーク(プライバシーマーク)です。どちらも情報保護に関する認証制度ですが、いくつかの違いがあります。まず、ISMS認証は国際規格に基づいた認証制度であるのに対し、Pマークは日本国内独自の制度です。Pマークは、日本工業規格に準拠した管理体制が整備されている企業に与えられます。また、保護対象の範囲も異なります。ISMS認証は企業が保有する全ての情報資産(個人情報だけでなく、企業秘密や技術情報なども含む)を保護対象としていますが、Pマークの保護対象は個人情報に限定されています。
情報セキュリティの3条件とは?ISMS認証の基本を理解しよう
情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)では、情報セキュリティを「情報の機密性、完全性、可用性を維持すること」と定義しています。この3つの条件は、情報セキュリティの基本的な柱となるものです。
機密性
機密性とは、認可されていない者に対して情報を使用させない・開示しないことを意味します。つまり、情報へのアクセスが許可された人だけが情報を確認できる状態を維持することです。一般に情報セキュリティと聞くと、多くの人がこの機密性を最初に思い浮かべるでしょう。
具体的な対策例
- ファイル・フォルダにパスワードを設定する
- 特定の者のみにファイルのアクセス権限を付与する
- データの暗号化を行う
完全性
完全性とは、情報の正確さ・抜け漏れの無さを意味します。情報が正しいまま維持され、改ざんや不正な削除が行われない状態を表します。例えば、ファイルの内容が古いにもかかわらず、それを最新のものと誤認して記録を書き加えていくと、正確な情報でなくなってしまいます。これが完全性の損なわれた状態です。
具体的な対策例
- 情報の更新や上書きができる人を制限する
- バージョン管理をしっかり行う
- データの整合性チェックを実施する
可用性
可用性とは、認可された者がアクセスや使用を試みた際に、いつでもアクセスや使用をすることができる状態を維持することです。つまり、必要なときに必要な情報にアクセスできなければなりません。例えば、ハードディスクが故障してしまい、パソコンのローカルに保管していたファイルの利用ができなくなった場合が、可用性が損なわれた状態です。
具体的な対策例
- 定期的なバックアップを取る
- システムの冗長化を図る
- 障害対策・復旧計画を策定する
情報セキュリティ3条件のバランス
情報セキュリティを考えるときは、3つの特性をどれか一つだけ重視するのではなく、組織の状況に合わせてバランスよく意識するといいでしょう。特に機密性と可用性は、片方を強くすると、もう片方が弱くなるトレードオフの関係になりがちです。例えば、機密性を高めようと厳しいアクセス制限を設けると、本来利用できるはずのユーザーまで情報にアクセスしづらくなり、可用性が下がってしまうことがあります。機密性を高める対策を考えるときは、使いやすさが極端に損なわれていないか確認する必要があります。反対に、便利に使えるようにする対策が、情報漏えいのリスクを高めていないかも気をつけましょう。結論として、組織のビジネスの特徴や守るべき情報の性質に合わせて、バランスの取れた対策を選ぶのがベストです。
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ISMS認証取得のメリット
ISMS認証の取得は、組織にさまざまなメリットをもたらします。適切な情報セキュリティ管理体制を整えることで、企業の信頼性向上やリスク管理の強化などにつながるでしょう。
対外的メリット
ISMS認証取得により、企業の対外的な立場が大きく向上します。主なメリットは以下の2点です。
1.取引先からの信頼獲得
組織のセキュリティ対策は外部からは見えにくいものです。自社でいくら対策をアピールしても、なかなか信頼を得るのは難しいかもしれません。ISMS認証を取得すれば、国際基準をクリアしていることを客観的に証明でき、取引先からの信頼獲得につながります。ただし、この認証はあくまで基準をクリアしていることの証明であり、完璧なセキュリティを保証するものではない点は理解しておきましょう。
2.入札できる案件の幅が広がる
官公庁や自治体の仕事では、ISMS認証が入札要件になっているケースが多くあります。認証を取得していれば、こうした案件に参加できるチャンスが広がります。最近では民間企業でも取引条件としてISMS認証を求める動きが増えています。認証取得は他社との差別化にもつながり、事業拡大や売上向上に期待できることでしょう。
対内的メリット
最大の対内的メリットは、自社のセキュリティ体制が強化される点です。ISMS認証取得には情報セキュリティ方針の策定、リスクアセスメント、従業員教育、内部監査などの取り組みが必要で、認証後もこれらを継続的に実施しなければならないため、自然と組織全体のセキュリティレベルが向上していきます。こうした活動を通じて組織全体でセキュリティへの意識が高まり、情報漏洩などのリスクも大幅に減少します。長期的に見れば、セキュリティインシデント(情報システムやネットワークなどのセキュリティの脅威が現実化した事象)による損害を未然に防ぐ効果があり、ビジネスの安定性や企業価値の保全にもつながります。
ISMS認証を取得するデメリット
ISMS認証取得には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も伴います。認証取得・維持に必要なコストの問題、業務負荷の増加などの組織が覚悟すべき点を理解しておきましょう。
コストの増加
ISMS認証取得には、さまざまなコスト増加が伴います。中でも、組織のセキュリティ環境が十分でない状態からはじめる場合、導入コストは大きくなるでしょう。認証取得には各種書類作成、担当者任命、運用改善など多くの作業が必要で、取得後もさまざまなルールに基づいた運用が求められます。これらを実現するための人件費やセキュリティ環境整備のためのコストは確実に増加します。さらに、審査機関への費用支払いも必要です。審査費用は認証機関や組織規模によって異なりますが、数十万円から100万円を超えるケースもあります。認証は一度取得して終わりではなく、維持のために毎年審査を受ける必要があり、そのための費用も継続的に発生します。また、コンサルタント会社へのサポート依頼やセキュリティ要件を満たすための機器導入など、追加費用が必要になることも考慮しておきましょう。
ISMS認証の取得にかかる期間と費用
・期間
ISMS認証取得には通常6〜9カ月程度かかります。自社のみで取り組む場合はさらに長期化する可能性があります。
・費用(必須)
審査機関によって異なりますが、30名規模の企業で約80〜100万円程度、50人規模の組織で~200万円が相場です。会社規模や取扱情報の重要性によって変動します。また、ISMSは年に1回の「維持審査」、3年に1回の「更新」が必要となり、維持審査で約40~100万円、更新審査で約60~150万円が相場です。
・コンサルティング費用(任意)
はじめてISMS認証を取得する場合には、コンサルティング会社に依頼してもよいでしょう。費用は高額で数十万〜数百万円ですが、適切なルール作りができるメリットがあります。
業務の負荷が大きくなる
ISMS認証を取るには、体制づくりや書類作成・管理、社員教育などやることがたくさんあります。特にコンサル会社に頼まずに自社だけでやろうとすると、担当者の仕事量がかなり増えてしまうため要注意です。認証を取得したあとも油断できません。毎年の審査対応や書類の更新・管理など、続けなければならない作業が次々と出てきます。「認証取ったら終わり」ではなく、通常業務にプラスしてISMS関連の仕事が増えることをあらかじめ考慮しておきましょう。
ISMS認証取得の流れ:7つの基本ステップ
ISMS認証を取得するには、以下の7つのステップを順に進めていく必要があります。
1.適用範囲の決定
認証は企業全体でも、特定の部署や事業部だけでも取得可能です。取り扱う情報資産の内容を確認し、最適な適用範囲を決めます。
2.情報セキュリティ方針の策定
組織の情報セキュリティに関する基本方針を決め、具体的な取り組みや原則を定めます。
3.認証機関の選択
複数の認証機関から費用や対応などを比較検討し、自社に合った認証機関を選びます。
4.リスクアセスメントの実施
組織内の情報セキュリティリスクを洗い出し、情報資産管理台帳を作成して具体的な対応策を計画します。
5.内部監査の実施
情報セキュリティ体制が適切に機能しているか社内でチェックし、問題点があれば改善します。
6.マネジメントレビューの実施
運用状況や内部監査の結果を経営層に報告し、経営者の視点から現状を見直して改善点を検討します。
7.認証審査とPDCAサイクルの継続
選定した認証機関による審査を受け、認証取得後も定期的な中間審査に対応しながらPDCAサイクルを回して継続的に改善を行います。
選ばれる企業になるために:ISMS認証の新たな価値
ビジネス環境が変化する中、取引先から選ばれる企業になるための条件も変わってきています。特に情報セキュリティへの意識が高まり、ISMS認証の有無が取引条件になるケースが増えています。自社のセキュリティ体制を見直す際、単なる社内ルールの整備だけでなく、対外的な信頼性も考慮すべきです。ISMS認証があれば「この会社は国際基準のセキュリティ対策をしている」と客観的に証明でき、新規取引や案件獲得の大きなアドバンテージになるでしょう。
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