伝票の電子化は経理業務の効率化で避けて通れない課題です。本記事では、伝票電子化の重要性、関連する法律や規制、実践的な電子化の方法を解説するとともに、メリット・デメリットも詳しく紹介します。業務効率の向上とコスト削減を両立させていきましょう。
伝票電子化とは?
伝票とは、企業の経理処理での取り引きの内容、金額、勘定科目などを記録する重要な書類です。一般的に入金伝票、出金伝票、振替伝票などの種類があり、会計処理の基本的な流れを支えています。企業はこれらの伝票を基に仕訳帳を作成し、総勘定元帳へ転記する作業を行います。伝票電子化とは、従来紙で作成・管理されてきた会計伝票を電子データとして作成・保存・管理する仕組みのことです。近年のDX推進やテレワークの普及に伴い、伝票電子化の重要性はますます高まっています。
伝票電子化に関連する法律や規制
伝票を電子化する際には、関連する法律や規制を理解しましょう。中でも「e-文書法」と「電子帳簿保存法」の2つの法律が伝票電子化と密接に関わっています。
e-文書法
e-文書法は、法令などで保管が義務付けられているさまざまな書類を電子化して保管するための基本的なルールを定めた法律です。e-文書法に基づいて電子化するためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。
見読性:電子化された書類がパソコンなどで鮮明に読めること
完全性:書類の改ざんを防止する措置(電子署名やタイムスタンプの付与など)を講じること
機密性:不正アクセスや不正な閲覧を防ぐセキュリティ対策(パスワード設定や操作ログの記録など)を実施すること
検索性:必要な書類をすぐに検索・閲覧できる仕組みを整えること
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、国税関連の書類を電子化して保管するためのルールを定めた1998年に制定された法律です。この法律は税務や会計に関する書類の電子保存に特化しています。2022年の法改正により、スキャナ保存時の原本の即時廃棄が認められたり、事前承認制度が廃止されたりして、電子化へのハードルが大幅に下がりました。
電子化の対象となる伝票
伝票の電子化で重要なのは、その伝票がどのような目的で作成・保管されているかという点です。伝票の性質によって、電子帳簿保存法の適用有無が決まります。
伝票の種類 | 詳細 | 電子帳簿保存法の適用 |
---|---|---|
国税関係帳簿の補助簿として機能する伝票 | 仕訳帳や総勘定元帳などの国税関係帳簿の記載内容を補充する目的で作成・保管される | 適用対象内 |
社内決裁や情報整理を目的とした伝票 | 企業内での決裁や情報整理などを目的として使用する | 適用対象外 |
ただし、実務上は伝票の使用目的を厳密に区分けするのは難しく、税務当局もその区分を厳密に問うことは少ないです。安全を期すならば、電子保存に際して必要な要件を満たしておけば、後々の税務調査などでも問題が生じにくくなります。そのため、伝票の性質によらず、一定の基準で電子化を進めるとよいでしょう。
伝票電子化の方法
伝票を電子化する方法にはいくつかの選択肢があります。企業の規模や状況、扱う伝票の種類や量に応じて、最適な方法を選択していきましょう。
スキャナ保存による電子化
スキャナ保存は、既存の紙の伝票をスキャナで読み取り、電子データ(PDFや画像形式)として保管する方法です。この方法は比較的導入しやすい電子化の第一歩として多くの企業で活用されています。スキャナ保存のメリットとしては、既存の複合機やスキャナを活用できることや、操作方法が簡単で従業員の負担が少ないことが挙げられます。使用例としては、社内の複合機を使用したスキャン、スマートフォンアプリを活用した外出先でのスキャンなどです。少量の伝票処理にはコンビニのスキャンサービスなども便利です。ただし、電子帳簿保存法に準拠したスキャナ保存を行うには、タイムスタンプの付与や検索機能の確保など、真実性・可視性の確保も求められます。法令要件を満たすためには、単にスキャンするだけでなく、適切なシステムやツールの導入が必要です。
tips:OCR技術を活用したデータ化
OCR(Optical Character Recognition:光学文字認識)は、スキャンした画像から文字情報を認識し、テキストデータとして抽出する技術です。単なる画像データではなく、文字情報としてデータ化することで、検索性や活用性が大幅に向上します。OCR活用のメリットとしては、データの検索が容易になる点、会計ソフトとの連携が可能になる点、データ分析に活用できる点が挙げられます。最近のOCR技術は従来よりも精度が向上しており、手書きの文字も高い精度で認識できるようになっています。ただし、100%の認識精度は保証されないため、変換後のデータチェックや修正作業が必要になる場合があります。また、OCRソフトやサービスによっては初期費用や月額料金が発生するため、費用対効果は十分に考慮しましょう。
最初から電子データで作成する
会計ソフトや書類保管システムを利用して伝票を作成すれば、紙に印刷する手間もスキャンする手間も省けます。最初から電子データで作成するメリットは、効率的で正確なデータを得られる点、紙の伝票が発生しないためペーパーレス化が進む点、会計処理との連携がスムーズになる点が挙げられます。使用例は、クラウド会計ソフト、経費精算システム、EDI(電子データ交換)システムなどがあります。電子帳簿保存法の要件を満たすためには、データの真実性を確保するための措置(システムへのアクセス制限、操作ログの記録など)、検索性を確保するための索引情報の付与などが必要です。注意点は、書類保管システムの場合、クラウド・オンプレミス問わず、スキャナ保存した書類と最初から電子データで作成した書類の両方を保管しなければいけません。
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伝票電子化のメリット
伝票を電子化することで得られるメリットは数多くあります。業務効率の向上からコスト削減まで、企業経営に大きなプラス効果をもたらします。
保管スペースの確保による管理コストの削減
伝票の電子化は物理的な保管や管理にかかるコストを大幅に削減します。
・オフィススペースの有効活用
キャビネットや書類棚に使っていたスペースを他の用途に活用できる。特に都心部のオフィスでは家賃が高額なため、スペース削減による経済効果は大きい。
・印刷コストの削減
伝票用紙の購入費や印刷にかかるトナー・インク代などの消耗品費が不要になる。特に複写式の伝票は単価が高いため、削減効果は大きい。
・整理・管理の手間削減
伝票を整理してファイリングする作業や、定期的に行う整理・廃棄作業の手間が省ける。これにより、経理担当者の業務負担が大幅に軽減される。
検索性の向上による業務効率化
電子化した伝票はデジタル検索が可能になり、業務効率が大幅に向上します。
・キーワード検索の活用
取引先名、日付、金額、摘要などで簡単に検索でき、必要な伝票を素早く見つけられる。紙の伝票では数十分かかっていた作業が、数秒で完了する。
・複数条件での絞り込み
「特定の期間」かつ「特定の取引先」などの複数条件での検索も容易になる。月次決算や年次決算、税務調査などの際に威力を発揮する。
・同時参照・共有の実現
複数の担当者が同時に同じ伝票を参照できるため、情報共有がスムーズになる。例えば「今、〇〇さんが使っているため待ってください」という状況が解消される。
場所を選ばない業務遂行
伝票の電子化によって、場所に縛られない柔軟な業務環境が実現します。
・テレワークへの対応
コロナ禍以降、テレワークが一般化しているが、伝票が電子化されていれば自宅からでも通常通りの経理業務が可能になる。
・出張先での業務継続
営業担当者や経営者が出張中でも、クラウド上の伝票にアクセスして承認作業や確認作業を行える。業務の停滞を防ぎ、意思決定のスピードが向上する。
・災害時の事業継続
クラウド上にデータを保管すれば、地震や水害などの災害時に伝票がなくなるリスクを回避できる。クラウド上に保管されたデータはバックアップも容易で、事業継続計画(BCP)の強化につながる。
伝票電子化のデメリット
伝票電子化には多くのメリットがある一方で、導入や運用にあたっていくつかの課題も存在します。
初期コストとランニングコストの検討
伝票電子化を導入する際は、さまざまなコストを検討する必要があります。
・初期導入コスト
システム導入費用、スキャナなどの機器購入費、データ移行費用などの初期投資が必要。特に、オンプレミス型のシステムを導入する場合は、サーバーやネットワークなどのインフラ整備も含め、相当額の投資が必要になる。
・ランニングコスト
システム保守料、クラウドサービスの月額利用料、バックアップ費用などの継続的なコストが発生する。従量課金制のサービスでは、伝票数の増加に伴いコストが上昇する可能性がある。
社内の従業員教育
システム導入に伴う人的な課題として、社内教育や業務変更への対応が挙げられます。
・操作方法の習得
新しいシステムの操作方法を全従業員が習得する必要がある。特に長年紙の伝票を使用してきた従業員は、デジタル化への抵抗感を持つことがある。
・業務フローの変更
電子化に伴い業務フローが変わるため、新しいルールやプロセスを理解し、適応する必要がある。これまでの慣習や習慣を変えることへの抵抗が生じるかもしれません。
・導入初期のトラブル対応
システム導入初期は操作ミスや理解不足によるトラブルが発生しやすく、業務効率が一時的に低下することがある。特に月末や決算期などの繁忙期に導入すると、大きな混乱を招く恐れがある。
tips:従業員教育を効果的に行うために
段階的な導入、十分なトレーニング期間の確保、マニュアルの整備などを考慮しましょう。また、社内にシステム導入の目的や効果を丁寧に説明し、理解を得ることも成功の鍵です。
取引先との連携
伝票電子化の課題の一つは、取引先とのシステム連携や運用調整です。
・取引先の対応力の差
取引先によってIT対応力に差がある。電子取引に対応できない取引先がある場合、二重管理が必要になる。
・フォーマットの互換性
取引先とのデータ形式やフォーマットの互換性がない場合、データ変換や再入力の手間が生じる。
・運用ルールの調整
伝票の修正や取消が発生した場合の対応方法など、取引先との間で運用ルールを調整する必要がある。
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伝票電子化を検討する際、全ての伝票を一度に電子化することが難しい場合もあります。特に、過去の膨大な伝票や原本保管が必要な書類は、紙のまま保管するという選択肢も有効です。そんなとき、外部の書類保管サービスの活用が一つの解決策です。専門の保管施設に伝票を預ければ、自社のオフィススペースを有効活用できます。ただし、書類保管サービスによって、耐火・耐震構造やセキュリティ対策のレベルには差があります。施設の安全性や災害対策の内容などをよく見極めて書類保管サービスを選ぶとよいでしょう。
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