情報漏洩のリスクが年々高まるなか、自社がどのような情報を、どこで管理しているのかを正確に把握できている企業は、意外と多くありません。個人情報保護法やISMS認証への対応でも、最初の一歩として求められるのが情報資産の把握です。その土台になるのが、社内に散らばる情報資産を一覧化し、所在と重要度を見える化する「情報資産管理台帳」です。この記事では、台帳の基本的な考え方から、情報資産の洗い出し方、記載すべき項目、形骸化させないための運用のコツまで、そのまま使えるテンプレートとあわせて解説します。

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情報資産管理台帳とは?
情報資産とは何を指すのか
情報資産とは、企業が事業活動で扱う価値のある情報の全てを指します。紙の契約書や申込書などの「紙媒体」、顧客リストや設計データなどの「電子データ」、USBメモリや外付けドライブなどの「記録媒体」、さらに従業員が持つノウハウのように形を持たない無形資産まで含まれます。形があるかないかを問わず、漏洩や紛失によって損害につながるものは、情報資産と考えてよいでしょう。
情報資産管理台帳の役割と目的
台帳の役割は、社内に散在する情報資産を一覧化し、その所在と重要度を可視化することにあります。どこに何があるのかわからない状態では、守るべき対象も定まりません。台帳は「自社が抱える情報の地図」として機能し、リスク評価、アクセス権限の設計、廃棄の判断などの管理業務の起点になります。
なぜ今、台帳による情報資産の管理が求められるのか
背景には、情報漏洩リスクの高まりと法令への対応があります。現行の個人情報保護法は、第23条(安全管理措置)で次のように定めています。個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失または毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。ただし条文が示すのは「必要かつ適切な措置」という枠だけで、何をどこまでやるべきかまでは書かれていません。その中身は、個人情報保護委員会のガイドラインが、組織的・人的・物理的・技術的という4つの安全管理措置(加えて「外的環境の把握」)として示しており、いずれの措置も、その前提として自社が保有する情報資産の把握が欠かせま_せん。また、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)やプライバシーマークなどの認証制度でも、取得・更新の際に情報資産の特定・棚卸しが求められます。
参照:個人情報の保護に関する法律 | e-Gov 法令検索
参照:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編) |個人情報保護委員会
情報資産の洗い出し方
「媒体軸×業務・部署軸」で漏れなく洗い出す
洗い出しを感覚に頼ると、漏れが出る可能性が高いです。そこで、二つの軸を掛け合わせて漏れを防いでいきます。一つは「紙/電子データ/記録媒体」という媒体軸、もう一つは「部署・業務プロセス」という軸です。部署ごとに各媒体の情報資産を順に挙げていけば、洗い出しの抜けを構造的に防げます。言葉だけではイメージしにくいため、表にするとわかりやすくなるでしょう。表計算ソフトで縦に部署・業務、横に媒体を並べ、交わるマスを一つずつ埋めていきます。例えば、次のような表です。
| 部署・業務 | 紙 | 電子データ | 記録媒体 |
|---|---|---|---|
| 営業部(契約・顧客管理) | 顧客契約書、申込書 | 顧客リスト、見積・提案データ | クラウドサービス、バックアップ用HDD |
| 経理部(請求・支払) | 請求書控え、領収書 | 会計ソフトの仕訳データ | ローカルHDD、バックアップ用HDD |
| 人事部(採用・労務) | 履歴書、雇用契約書 | 従業員名簿、給与データ | ローカルHDD、バックアップ用HDD |
| 情報システム部 | ネットワーク構成図 | サーバー内の共有ファイル | クラウドサービス、バックアップ用HDD |
こうしてマス目を一つずつ見ていくと、「この部署のこの媒体は?」と機械的に問えます。頭の中の思いつきに頼るよりも、埋め残しのマスがそのまま「まだ確認していない資産」として浮かび上がるため、漏れに気づきやすいはずです。
※表の中身はあくまで記入イメージのため、実際の部署名・扱う資産に差し替える前提で記載しています。行数はこのくらいからはじめ、あとで部署を足していく形が現実的でしょう。
見落としやすい情報資産チェックリスト
特に漏れやすいのが、目に見えにくいデジタル領域です。次のような資産は棚卸しから抜け落ちやすいため、洗い出しの最後に、この観点で再点検するとよいでしょう。
- クラウドストレージ上のファイル:社内サーバーだけを見て、クラウド側を見落としがち
- メールの添付データ:本文はチェックしても、添付は台帳に載りにくい
- 退職者が使っていたアカウント:使われなくなった時点で、棚卸しの対象から外れやすい
- 私物端末(BYOD)に保存された業務データ:そもそも会社の目が届きにくい
- 紙と電子で二重に保管されている資料:どちらか片方しか記録されず、もう一方が野放しになりやすい
完璧を目指さず主要業務から着手する進め方
全てを一度に網羅しようとすると、着手するハードルが上がってしまいます。まずは中核となる業務や明らかに重要度の高い情報から台帳化し、運用しながら追記していく前提で進めるのが現実的です。台帳は一度で完成させるものではなく、育てていくものと捉えておくとよいでしょう。
台帳の項目と重要度の決め方
台帳に記載すべき基本項目
台帳の核となる項目は、ある程度決まっています。最低限そろえたいのは、資産名/管理部署・管理者/媒体/重要度/保管場所/保存期限/廃棄予定日です。なかでも重要度は、管理の軸になります。「漏えいした場合の影響の大きさ」と「法令や契約上の保護義務の有無」を物差しにして、高・中・低の三段階で評価すると、判断がぶれにくくなります。
そのまま使える台帳テンプレート例
テンプレートは、凝る必要がありません。表計算ソフトで、先述の基本項目を横の列に並べ、一資産を一行で記録していく形で十分に機能します。
| 資産名 | 管理部署 | 媒体 | 重要度 | 保管場所 | 保存期間 | 廃棄予定日 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 顧客契約書 | 営業部 | 紙 | 高 | 本社書庫 | 7年 | 2031年3月 |
| 顧客リスト | 営業部 | 電子 | 高 | 共有サーバー | 退会後3年 | 随時 |
※上表の保存期限(「7年」「退会後3年」など)は、あくまで記入イメージを示すための例です。書類ごとの保存期限は、根拠となる法令や社内規程によって個別に定められており、一律ではありません。実物の台帳では、自社が扱う各書類の根拠(税務・会計関連の法令、契約上の義務、社内規程など)を確認したうえで設定します。列を増やしすぎると運用が重くなるため、まずはこのくらいの粒度から始めるのがよいでしょう。
作成時につまずきやすいポイントと対処
よくあるつまずきは、分類が人によってぶれてしまうことです。担当者の感覚任せにせず、重要度の判断基準を社内で文書化しておけば、誰が記入しても粒度がそろいます。また、項目を細かくしすぎて記入が負担になり、更新が止まってしまうケースも少なくありません。迷ったときは、項目を削る方向で調整するのが、続けるためのコツです。
台帳を形骸化させない運用のコツ
更新の担当者とタイミングを決める
台帳が古くなる最大の原因は、更新の責任者が曖昧なことにあります。「誰が・いつ更新するのか」をあらかじめ決めておくと安心です。新しい契約の締結時やシステムの導入・廃棄のタイミングなど、情報資産が動く場面を更新のトリガーとして紐づけておくと、放置されにくくなります。
定期的な棚卸しで台帳を最新に保つ
日々の更新に加えて、半年や一年ごとなど周期を決めた棚卸しも欠かせません。実態と台帳のズレを定点で洗い出し、すでに存在しない資産の削除や新規資産の追加を行います。棚卸しを業務カレンダーに組み込んでおけば、「思い出したときにまとめてやる」という事態を避けられます。
「作って終わり」にしないための仕組み化
更新が個人の善意に依存していると、担当者が変わった途端に止まってしまいます。フォーマットの固定、更新ルールの明文化、チェック担当の設定などの形で、仕組みとして回る状態をつくっておきたいところです。台帳を作る労力よりも、最新に保ち続ける労力のほうが大きいと心得ておくとよいでしょう。
台帳上で「保管」と分類した書類の管理方法
台帳は地図、現物の保管は別途解決が必要
台帳はあくまで所在と状態を示す「地図」であり、現物そのものを安全にしてくれるわけではありません。台帳に「本社書庫に保管」と書いても、その書庫が施錠されず、誰でも持ち出せる状態であれば、管理できているとは言い難いでしょう。台帳の整備と並行して、現物の保管方法そのものを見直す必要があります。
紙の重要書類の保管における課題
紙の書類には、電子データとは別の難しさがあります。年々増え続けて保管スペースを圧迫するうえ、施錠やアクセス制限の管理にも手間がかかります。契約書のように保存期限が定められた書類では、期限の管理と適切な廃棄も欠かせません。さらに複数の拠点に分散すると、原本がどこにあるのか追えなくなるという問題も出てきます。
自社管理・貸し倉庫・書類保管サービスの比較
保管の選択肢は、大きく三つに分けられます。自社管理は手軽な一方で、スペースとセキュリティの負担を全て自社で抱えることになります。貸し倉庫は容量を確保できるものの、施錠・検索性・保存期限管理までは担保されません。専門の書類保管サービスは、セキュリティ環境での預け入れ、保存期限に応じた管理、必要なときの取り出しができるため、台帳上「保管」と分類した重要書類の預け先に向いています。自社の書類量と、求めるセキュリティ水準に応じて選ぶとよいでしょう。
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